《歪な》運命 第6話 「異常事態」sideユイ
4月の暮れ
貴族の娘の自殺というのは貴族クラスではかなり話題になり続けた。私達も例外ではない。
しかも、彼女の家柄は中途半端だった。兄の犯罪の有無以前に、家は王宮貴族でもなければ、諸侯貴族でもない、改革派貴族だった。
改革派貴族は二つの間にある貴族で、常に上と下の仲を取り持ったり、おかしいと思うことを改革していく。それ故に冤罪にかけられやすく、我が国ではかなり弱い。
学院にも改革派貴族の子供というのはいるが、さすがに学院は排除しなかった。これも無関係だからと言い張るのだろう。
私の周りの大きな変化と言えば、ナーシャがやたらと私を避けだした事だ。おかげでノアとはちっとも話せない。
でも、私には関係ない。
「こんにちは」
「あら、エリザじゃないの」
「今日は私のお家でティーパーティを開こうと思うのだけれども、どうかしら」
「もちろんですわ」
「良かったわ」
私はナーシャとノアが離れた代わりにエリザという王宮貴族の娘と仲良くなった。彼女は父親が大臣のトップらしいが、気取ることはせず、常に笑顔で優しい。
私はエリザのお家に向かった。王宮貴族はやれ庭園だのやれ離れだのとにかく派手なのだが、彼女のお家は他の貴族とは何ら変わりがなかった。だから私も安心できる。
だが、やはり階級の壁は大きい。私は未だにエリザに対して敬語ではないと怒られてしまう。私の父親は貴族だが、別に王宮には勤めていない。だからなのだろうか。
「私は階級なんて窮屈でいらないものだと思いますの」
「エリザ様、確かにそうですわね」
エリザの言葉に賛同したのは貴族の端くれの娘。エリザなんて雲の上の存在、貴族の社交界にすら入れない、そんな貴族の子供は様をつける。
エリザも階級について不満があるらしい。確かに、エリザと同等の人は少ないし、上となれば王族とごく少数の貴族だ。このようなティーパーティ以外ではあまり気楽に話せる相手などいないのだ。
「私はね、お父様の後を継いだらややこしい階級をなくすわ。貴族の中で争うだなんて、そんなのおかしいもの」
「流石ですわ」
「素晴らしいですね」
にこりと微笑むエリザに私達は口々に賛同し、褒める。本人はあまり良くは思わないが、褒めなければ自分たちの家の明日はない。
すると、ティーパーティを楽しんでいる小さな庭園に似つかわしくない男が突然現れた。あの勝ち誇ったような笑みは完全にあの男だ。
「やあ、エリザ」
「──何かしら」
「君と婚約できて本当に嬉しいよ」
「あら、そう」
「今日はパーティがあるのだろう? ならなぜのんびりと愚民に付き合っているのだ」
「愚民ではありませんわ。彼らも立派な貴族のご子息、ご息女ですわ」
「そうは見えないなあ──おや、君もいるのか、ユイ」
彼は私を見てにやりと笑った。これが嫌いなのだ。
「あの時の剣幕は凄かったなあ。まさか、婚約を自ら破棄するなんて。無礼の極みだと今でも思っているよ」
「まあ、ユイ。彼との婚約を破棄したの? 」
「──ええ。エリザ、私はこのような男とは到底釣り合わないと考えたのですわ」
「そうだったのね」
この男はエリザより一つ階級が上だ。王様の補佐官をしており、27歳なのだが、このとおり他人を貶す以外能がないため、これまで婚約は上手くいっていない。どれも相手が怒って破棄している。
私も彼に貶された。あの時はまだ補佐官成り立てということもあり、私の父親は少し疑心暗鬼で構えていた。それは当たっていた。私のことを──思い出すのも嫌なぐらい、酷い言葉で貶された。
「とにかく帰ってちょうだい」
「はは、つれないねえ」
彼はこのメンバーの中で一番階級の低い人をにらみ、出て行った。彼は階級の低い人を人間とは見なさない最低最悪な奴だ。
「彼はこの私を怒らせましたわ」
笑顔でさらりと怖い事をエリザは言った。
お開きになり、私は学院に戻った。──ナーシャと廊下で遭遇する。まあ当然だ。部屋は私、ノア、ナーシャ、と順位で並んでいるのだから。
ナーシャは私を睨んだ。彼女は普通の貴族だ。エリザとティーパーティをしたというのが羨ましいのだろう。
「──本当に、醜い人」
私は目を見開く。そう言い残すと、ナーシャは部屋に戻った。
私は聞いたことのある言葉に、感情が動いてしまった。醜い、醜い、醜い……? あなたも私を、私を──。