神崎美柚の小説置き場。

新しいスマホにやっと慣れてきました……投稿頑張ります

《歪な》運命 第8話「複雑」sideメアリー

 4月に二人も死んでしまい、次は誰が死ぬのだろうかと私たちは冷や冷やしていた。しかし、死んだ二人とも貴族なので庶民的にはどうでもよくなっていた。
 それよりも、マナとセナ。この二人はどうやら彼氏の事でもめているらしい。マナは切りつけたことも、少し反省しているとは言っていた。だが、謝る気はないらしい。
 授業後、二人は決して部屋に戻らない。門限ぎりぎりまで帰らない。私はそれが心配なのだ。この寮にいる限りは身の安全が保障されるというのに、二人はそれをむげにしている。
 私がうだうだ考えるこの休日。ミシェルもいない。私一人だけだ。
 私は勉強をしたかったが、あの双子を放置するのも気がひけてしまう。それこそ、幼なじみなのだから、私が責任持たなくちゃ。

 「ねえ」

 隣にはエリーがいつの間にかいた。中学生のとき、途中まで親友だった。途中からマナに性格が最低だとか言われたので離れた。今思えば、それはマナが私を独り占めするための嘘だったのだろう。

 彼女は上位クラスだ。休みだからってここに来るのはよくない。私は早々に帰るよう言おうとしたが、遮られた。

「私も暇なの。だからうろついていたら暇そうなメアリーを見つけたわけよ」

 笑顔で言われたので、妥協して私は他人に見られても構わない場所に移動することを提案した。
 魔法学院総合棟。この総合棟は長期休み以外に親や友人などと会いたいと思った時に使われる、いわゆる面会所だ。そこの受け付けに空室を聞くと、今日は一部屋以外空いているとのことなので、1001を使わせてもらうことにした。
 中にあるソファに座るなり、エリーは私の顔を見つめてきた。

「な、何? 」

「いや、マナのこと、謝りたくて。私、中学生のときにマナを怒らせてしまったんだよね。短気すぎるマナも悪かったけど、私も悪かった。だから、その──」
「あのとき縁を切らされたのは二人が喧嘩したからなの? 」
「喧嘩、というかマナの彼氏に告白しただけ」
「……え」

  マナに彼氏だなんて初耳だ。確かに怒る理由としては正統だが、納得がいかない。

「ねえ、マナの彼氏って嘘だよ、それ」

「は? 」
「いやだって……告白しなよって言っても、見つめていたいのって言い返されたもの。彼氏ではない。未来の彼氏よ」
「……」

  エリーが顔を赤くした。あ、怒ってしまった。
 マナは好きな人をストーカーするのが趣味だ。よくないとは分かっていたが、私には諌めることができなかった。怖かったのだ。

 「なら、私、文句言うわ。手紙をあなたに渡すからマナにきちんと渡してね」

  そう言うと、ポシェットから紙とペンを取り出し、書き始めた。
 完成するまで私はエリーのことを振り返ってみた。マナみたいにすぐに不機嫌になることなんてない、いつも明るくて友達に囲まれている人。まさしく、私が必要とする理想の友達だ。
 ──と、エリーは私に丁寧に折り畳んだ紙を渡してきた。笑顔だ。

 「さ、そろそろ寮にもどろうか」

  エリーとわかれた後、私はとりあえずマナを捜すことにした。敷地内からは出れないので、範囲は狭い。

 ……はずなのに。いないのだ。クラスメイトに尋ねたが、あの曲がりきった性格のマナは当然の如く避けられているようで、逆に私が憐れまれた。(取り巻きがマナにはいるが、彼女達に声をかければ大事になりそうなのでやめた)
 夜になれば帰ってくるだろうと私は部屋で待つことにした。だが、帰ってきたのは私服姿のセナとミシェルの二人。

 マナはこの日、帰ってこなかった。

  朝帰りだなんてもっての他だが、学院は気にもとめない。不干渉だからだ。
 かと言ってマナの両親が行方不明だという事実を知ることもない。どうなるのか冷や冷やしながら私はミシェルと二人きりでご飯を食べている。

 「メアリー、心配しすぎだよ。あっという間に試験の日は来ちゃうよ? 」
「うん……」

  ミシェルは明るく振る舞おうとしているし、私を元気にするため必死だ。私はとりあえず笑顔になり、食べ進める。
 と、いつものように遅く起きてきたセナが食堂の入り口でだれかともめだした。

 「あんたなんでしょ!? マナを、行方不明にしたのは! 」
「何のことかしら、マナ信者さん」
「っ! この、悪魔! 」

  マナのいわゆる取り巻きがセナを責めていた。セナは朝食を食べない主義なので、時間は気にしていないらしい。先程から相手をからかっている。

 「第一、あれが私に近づくはずないわよ。私のことを殺したいぐらい憎んでいるのだからね」
「……でも、あなた以外ありえないわ」
「別に疑っても構わないけどね。あ、これ、あれに返しておいてね」

  吐き捨てるように言うと、セナは何かを渡し去った。取り巻きがそれを見てそれぞれ青ざめたり、顔を輝かせたりした。
 私達はこの間に食べ終わり、そっと片付けも済ませた。

 「これ、マナのノート……」
「当人はいないけど、見ちゃダメよ」
「でも、気になるなあ」

  私とミシェルは取り巻きの3人を尻目に立ち去ることにした。

 今日の授業は何の問題もなく進む。マナはまるで最初からいなかったかのように扱われた。
 昼休み。私が立ち上がる前に取り巻き3人組が私にマナのノートを突きつけてきた。座り直し、私は渡されたノートの中を見る。

 「マナがこんなに執念深いなんて知らなかったわ」
「本当……正直、もう近づけるかどうか……」
「ノート見たこと、後悔してるのよ……ごめん」

  友人である私にそれぞれ言葉を発する取り巻き3人組。確かに、これはヤバい。

 『ハーベルクがセナと仲良さ気に話していた。何でなの!? 彼は、私の彼氏なのに! 憎い、憎い! 悪魔みたいなセナが憎い! 死んでしまえ! 』

  これはナイフでセナを傷つける前日に書かれたものだ。マナは感情をコントロール出来ていない。それが分かる。
 取り巻き3人組の中心であるカチェリーが目元に涙を浮かべながら話し始めた。

 「前から異常だとは知っていたの。ハーベルクは私の彼氏となるのよ、と告白する前から自慢ばかりしていたもの……今思えば、なぜそれを受け入れていたのか分からない。メアリーは私のかけがえのない親友だから奪わないでよ、と言っていたのも……」
「え、私が? 」

  私とマナが親友になったのは小学生の時の話だ。それも途中からだ。あちらから話しかけてきた。元々、私はセナと親友だった。あの時のセナは純粋で、姉と仲良くなろうと努力していた。
 そんな二人の関係は私が壊したようなものだった。かなり複雑だったことを知らなかったとは言え、無神経にも、セナのいる場所で二人共親友だよとクラスメイトに話してしまった。そこからだった。マナはセナを避け、セナはそれを受け止めた。
 まさかとは思うが、あの場にマナもいた?
だとしたら……。

 「メアリー、昼休み終わっちゃうよ」

  いつの間にか取り巻き3人はいなくなり、目の前にはセナが、いた。
 驚きのあまりすっとんきょうな声を出してしまい、セナが笑う。

 「私達は親友でしょ? マナの意地悪に付き合っていたのは知っているんだから」
「でも──」
「はい、パン。今から移動したら間に合わないからさ、一緒に食べようよ」
「ありがとう、セナ」

 

 久しぶりに話したはずなのに、セナは私の好みを覚えてくれていた。私が、クリームパンが好きだということを──。