神崎美柚の小説置き場。

新しいスマホにやっと慣れてきました……投稿頑張ります

《歪な》運命 第12.5話「ウソとホント」side.ユイ

 テストなんてくだらない、と私は思った。だけれども、受けなければ私のお父様の名誉は丸潰れだろう。そのこともあり、仕方ないから受けた。
 それに、私は学年一位だ。学院に貢ぐお金も、成績も。
 二日目が終わり、私は門限まで王国の図書館に入り浸ろうと考えていた。あそこには、はるか昔に禁書となったダラン=バーク先生の書物が保存されている。
 学院の門から出るとき、ノアと遭遇した。ノアはどうやら外から帰って来たところらしい。

「ねえ、どこに行くのかしら? 」
「王国図書館。疲れたから本が読みたいの」
「……でも確かたくさん所有していたような」
「私にだって買えない高い本もあるのよ」
「へえ。暇だから一緒に行っても構わない? 」
「いいわよ」

 王国図書館は広いから、私の探す本までバレはしないはず。まあ、バレたら殺すだけなのだけれども。
 図書館に着くなりノアは私ら貴族の少女がよく読むような本を求め、探し始めた。嗜む程度なので、本と言ってもかなりの短編小説で、貴族の娘は普通にそれを1週間かけて読むという。だからこそ、学院の教科書もかなり薄い。初めて見たときは、信じられない、と言いたくなった。
 私は地下に繋がる階段を降りる。男性ばかりいるが、時折女性の姿も見られる。基本的にここにいるのは禁書扱いを受けた本の作者を研究する学者ばかり。私みたいに本気で尊敬する人は少ないだろう。

「あったわ」

 小さな声で呟く。ダラン先生の著書は150冊もあるが、禁書扱いを受けたのは70冊。最終的に王国から処刑を言い渡されるまで36年間で70冊を書き上げたという。有り得ない速さで出した本の中で王国やテ・アードを鋭く批判しているところに私は惹かれてしまう。
 幼い頃から読み続けているが、まだ25冊目。この本はどのようなものだろうか、と席に座り本を開く前に想像する。
 タイトルは──『テ・アードの意義』。書かれたのは300年前。内容がテ・アードの怒りに触れ、この本で初めて禁書扱いを受けたという。
 本を、めくる。

『私はテ・アードの意義について疑問を常日頃から感じている。最近世間を何かと騒がす異常気象。その原因を知りながらも未だに対策をとらないテ・アード。本当に、テ・アードに意義はあるのだろうか』

 私はうっとりとする。この鋭い批判。権力をも恐れない姿勢が素晴らしい。
 すると、視界の隅に本がどさりと置かれたのが見えた。どこぞやの研究者だろうか、とちらりと見る。

「!? 」

 私は焦る。その人の胸元には、機関の象徴マークである太陽が描かれたバッジが。しかも、六芒星付きである。髪は先程から揺れている。女性だ。
 ──もしや、この人は機関の総管理官・アキナ!? だとしたら、私は、バレたらおしまいだ。
 私はそっと本を閉じ、アキナが目を離している隙に本を棚に戻す。そして、螺旋階段の影で盗み聞きをする。

「あーもう! 図書館っていらつくわ。暑くてむしむしと……」
「仕方ありませんよ。ここは図書館ですから」

 ちらりと見ると、アキナ以外には8人いた。彼らは手元で禁書扱いから外された本に何か作業を施していた。──機関がなぜ、テ・アードと国の定めた禁書をまたいじるのだろうか?

「最近の事件はここの本に感化された人が起こしているらしいから、さっさと封じるのよ」
「にしては人数すくないですよね」
「大がかりにすると、ここの本の信者が邪魔するでしょう? この時間ならば信者──まあ、研究者だけど、彼らは本業で忙しいはずよ」

 迂闊だった。私は周りを見ていなかった。
 私はこれ以上はマズイ、と上に上がった。

「ノア? いる? 」

 階段は人気のない場所にある。私はそっとその場所を出て、つまらない現代の哲学の本の棚でノアに声をかけた。それは、この棚の向こうが貴族息女本の棚だからだ。
 案の定、ノアのとぼけた声が返ってきた。

「いるわよ。ねえ、ユイもどうかしら? 」
「私は分厚い本が好きだから結構よ。それよりも、そろそろ帰ろうかしらと思ったの。大丈夫かしら」
「ええ! 数冊借りたから大丈夫よ」

 数冊の本を抱えたノアがひょこっ、と現れた。どれも、興味を引く本ではない。しかも、かなりの短編集だ。貴族の少女はこんな本を読むのか、と私は感心してしまった。
 帰り道。ノアは私に何の本を読んだのか、とか、オススメの本はあるのか、とか聞いてきた。
 本当の事は言えないので、嘘をつくことになる。

「長編の物語よ。短編集ばかり読む人にオススメできる本は……ないわね」
「そっか。──ねえ、ユイ。あなたは短編集、読んだことないの? 」
「ええ。幼い頃から長編の物語ばかり読んでいたわ」
「本当に変わっているわね」

 私が貴族の娘らしくないのは知っている。私だって、少しは貴族の娘らしく育てて欲しいと思ったことはあった。でも、もう、あきらめた。あんな両親に期待するなんて出来ない。
 私を、ずっと放置していた両親になんて……。