神崎美柚の小説置き場。

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《歪な》運命 第13話「旅路」side.ユイ

 夏期休暇を利用して私は国中を巡る旅に出ることにした。連続殺人事件の不安感から多くの貴族が別荘へと行っているというのもあり、私も外に出よう、と考えたのだ。
本来ならいつものあの別荘に行くが、今年は何の気まぐれか両親が長いことそこに滞在するらしい。私はそこに居たくなかった。どうせ両親と私を可愛がってくれたおばあさまの口喧嘩が起こるだけだからだ。
 まずは一番北にあるノアークという町に行くことにした。そこには二週間滞在する。
 私の尊敬するあの方の出生地であり、王都から追い出された後はひっそりと住んでいた地。
 たどり着くまでに一週間近くかかるので、私は途中の町にももちろん泊まるが、あくまでもノアークが目的地だ。
 馬車用の馬とは言え、走るのは7時間が限界らしい。この王都から7時間かかる一番遠い北部の町はマラーゾ。かなり辺鄙な場所にあるのだが、歴史的価値が高いため、歴史好きの人は苦労しても行きたいとか。
 私はマラーゾ行きの馬車に乗り、持ってきた本を読み始める。実は距離的にはそう遠くないが、7時間かかるのは山岳地帯だからとか。
 ちなみに1日目はそれ以上北には行けない。小さな町であり山岳地帯にあるマラーゾは朝と昼以外には馬車がない。私が着くのと入れ違いになって昼の便が出るだろう。
 私が本に夢中になってると、声をかけられた。

「その身なり、貴族かしら? 先程からちらちら見える顔つきからして……学生でしょう、あなたは」
「──ええ、はい」
「大丈夫、大丈夫。お姉さんはルール理解してるし、貴族じゃないもの。私はノアークに行くのだけれども……あなたは? 」
「私も、ノアークに行きますわ」
「へえ。じゃあ、一緒ね」
「はい」

 私と彼女以外誰も乗っていない馬車。まあ、普通の人は昼の便でマラーゾに向かいマラーゾを楽しむからだろう。
 ──だから私は彼女を疑った。ノアークに行くにしても、昼の便でも構わないはずだ。私が朝早く出たのは、別荘に向かう貴族や同級生に遭遇しないため。しかし彼女は、なぜ……?
 ……私はあくまでも普通の貴族の娘で、学院の生徒。そう振る舞うことにした。

 時折おしゃべりをして過ごし、5時間程経過した頃。山岳の麓にあるラマという村で馬車は止まった。
 私が窓の外を見ると、大雨がいつの間にか振りだしていたらしく、大粒の雫がまどについていた。

「すまねえな。この雨だと、山岳地帯には行けねえ。だから、ラマ村から山岳地帯を避けて6時間でユユリタという町に行く便に乗ってくれ」
「いつ出ますか? 」
「15時だ。それまであの建物で休むといい」

 勧められるがままに建物に入り、中にあるソファーでくつろぐ。持っていた地図を見ると、確かにラマ村付近に僅かだが平地があり、うねってはいるがユユリタという町に続く道がある。
 私は正直言ってユユリタ行きには乗りたくない。貴族らしからぬ生活を送っていた私でも、あんな悪路に耐えきる自信はない。
 私が苦い顔をしていると、先程の女性がまた声をかけてきた。

「どうしたの? ユユリタ行きに乗るか悩んでいるの? 」
「ええ、まあ。悪路に耐えきる自信が無くて……」
「あらまあ、奇遇ね。私もよ。それに、ラマ村はお食事も美味しいし、マラーゾ町と違って物価も安いし、人も少ない。良いこと尽くしだからせっかくならと思って泊まることにしたの。──また後で会いましょう」

 早口で喋ったかと思えば、笑顔でいなくなっていた。変わった人だわ。
 変に同調する割には名前を名乗らない彼女に私は不信感を抱きつつあった。ノアークは狙われるような要人が今でも身を潜める町として有名だ。そこに用があり、尚且つ名乗らないとは……まさか……。
 私はラマ村から南に行くことにした。ここから馬車で30分程行ったところにトクナという小さな町がある。あの女性から離れるには明日はトクナからマラーゾ(2時間30分)、マラーゾからユユリタ(2時間)という感じに進もう。ユユリタから先は謎の女性次第だろう。

 トクナに着き、宿を探す。幸い一部屋空いていたので私はそこに泊まる。
 トクナはラマ村と同様に見所と言えば美味しい食事しかない、寂れた町。だから私はお昼からは都市にはない穏やかな風景を宿屋近くの丘でぼんやりと見ているしかなかった。
 こうして見ていると昔のことを思い出す。別荘のある村は緑豊かで、程よい静寂に包まれていた。読書するにはとても良い環境だった。私が傷ついていたあの時に──。

「……っ! 」

 最近、昔のことを思い出そうとすると頭痛がする。なぜだろう。何か、悪いものでも憑いているのだろうか。
 今夜は早めに寝よう──。