神崎美柚の小説置き場。

新しいスマホにやっと慣れてきました……投稿頑張ります

《歪な》運命 第13.5話「彼女という存在」

 彼女が意識を切ったことを確認し、私は目覚める。
 私が生前から愛していた殺人。それは、私が入っている体の持ち主である彼女が激昂したり、眠るなどして意識を切った際に行われる。そう、意識を切った後私が入るのだ。

「こんばんは」

 宿屋を出た後、誰かに話しかけられた。深夜だから誰もいないはずなのに。
 振り向くと、黒い服の女がいた。仮面を被っており顔の判別はつかないが、声からして昼間の女だ。

「あなた、少女を苦しめてまで殺人を行いたいのかしら」
「これは私とユイの契約の元よ? まあ、本人は忘れてしまっているけれど……」
「──それでも、あなたの存在は容認しがたいわ」

 女が持っていたナイフを私に振りかざす。ユイごと殺すつもりらしい。
 私は軽々と避けて森へ走る。こんな女に構っていられない。

──

 私は失敗した。悔しくて、悔しくてたまらない。
 姉に勝ちたい。その一心で、慣れないナイフを使ってユイの中にいる彼女をユイごと殺してしまおう、と私は計画した。ナイフを取り出したらきっと動揺する──という考えが甘かったのだ。
古代魔女の中でも最強だった彼女は殺人を生涯好んだ。だが、何者かの裏切りにより、彼女は処刑された。
 そんな彼女の意識を本に封じ込めたのが当時のシャラン家当主だった。その後の本の行方は誰も知らなかったが、シャラン家書庫になぜか保管されていたのを私は耳にした。書庫に潜入して彼女を殺そうと私は考えた。
 書庫に潜入する前の日、ユイ=シャランという女を街で見かけ、私は愕然とした。彼女が既にユイと契約していることが判明した。あまりにも魔力値が高いから驚いて中身を見たわけだが、あれも失敗だった。

「さて、これからどうしようかしら……」

 考えた末にもう彼女を追いかけるのを諦め、宿屋におとなしく戻ることにした。

──

 殺人を終え、私は宿屋に戻った。あの女は簡単に諦めたようだ。あの女の一番上の姉や母親は才能が素晴らしいと聞いたことがある。ユイが幼い頃、書庫で暇そうにしている私によく語ってくれた。

『きょうはね、テ・アードについてかたるね! 』
『テ・アード……? ──私が生きていた時代に発足したあれか。私を処刑すると決めたのも奴らだったな』
『そんなにひどいんだ……。でもね、テ・アードはいまから200年前にじゃくたいかしたからあんしんして! 』
『はは、それはよかった』
『ナディアというおねえちゃんが、いもうとのアリスをテ・アードからかいこしたのがはじまりだ、ってこのほんにあるよ』
『ほう。そうなのか』
『ナディア、アリス、ユキ。このさんにんは美しいセレナート三姉妹だったって! 』
『ふむ、そうか』

 ユイはわざとらしく年相応の少女のように振る舞いながら、語り続けた。
 テ・アードはユキが機関と新しい魔法を創ったことにより、あっという間に弱体化した。ユキが必要以上に姉を含めた古代魔女を嫌い、テ・アードから魔力値や魔法を奪い取ったのだという。逆らえば殺され、それを管理をしたのがシャラン家だった。だからこそ、あの書庫にはたくさん古代魔法の本があるのだ。
 私はそれらを思い出し、微笑む。

「おやすみなさい、ユイ」

 返事なんて返ってこないのに、私は無駄に呼び掛けた。