神崎美柚の小説置き場。

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《歪な》運命 第14話「未解決事件」side.アキナ

 未だに特定ができていない誘拐事件や殺人事件の犯人を機関に探してほしい、と王国治安維持部隊の隊長が直々にお願いしに来た。私は驚いた。

「まさか、魔女の仕業だと? 」
「そんな、まさか! 捜査がこれ以上長引けば、貴族間での争いが激しくなる為仕方なくです」
「へえ。まあ、確かにそうかもしれないけれど……」

 そういえば4月には学院の女生徒が自殺した。無罪である兄を再び逮捕したことに反論したが、誰にも受け入れられなかったからだ。当の兄はその後、証拠が不十分だった為釈放されたものの、全てを失い、両親と共に国中を転々としているらしい。
 そしてこの事件も結局迷宮入りしてしまった。しかも似たような事件は最近では多発している。隊長に渡された資料に目を通す。今まで以上に真剣に読む。
 ──まさか。
 私が驚きのあまり資料を手から落とすと、お茶を飲んでいた隊長が顔をあげた。

「どうかされましたか? 」
「い、いえ……『死体の欠損』が気になりまして」
「ああ、それですか。いくつかの事件において死体の一部分が未だに見つかっていないのです。足だったり、腕だったり……。人間をおもちゃか何かと思っているのでしょうかね」
「いえ、人形のパーツと思っているのですよ」
「人形? 」
「かつてこの国には古代魔女と競争してきた人形師がいました。彼らは古代魔女と同様に残酷な考えの持ち主でした。人形師は古代魔女よりも優れていて、人のパーツを集めて新たな人を作ることが可能で、自分が望む、完璧な人間を──」
「……死体の欠損はまさか」
「そうかもしれないですわね」
「でも、古代魔女がいたのは200年前までですよ? 彼らはもう」
「それが生き延びているかもしれないでしょう? 」
「……まあ、普通の人間ならあり得ないですからね。そういうことにしましょう。それでは今日は帰りますね。今月末ぐらいにまた来ますから」
「分かりましたわ」

 私は彼を正面玄関まで見送った後、部屋に戻ってソファーに倒れこむ。
 今年は大変すぎる。いくつもの案件を機関が同時に抱え込むことになってしまっている。
 まず、異常気象。異常気象を国が対処しきれず、機関も関わることとなった。しかし、被害は拡大するばかりで私達は困り果てている。
 そして先程聞いた未解決の連続殺人事件。被害者の遺体に欠損があるとは驚いてしまった。こちらの方が対処が難しいだろう。

「……また彼らを頼るべきかしら」

 学院でも起きている連続殺人事件。それは未だに続いている。解決せずに放置すれば文句が出るだろう。
だが、学院を機関に取り込む際に旧学院管理機関(現在は解散している)と共に取り決めた青少年不干渉宣言というのがあるせいで機関が関われない。そこで仕方なく私は古代魔女の団体であるテ・アードに頼ったのだ。
 するとテ・アードのトップは事件現場に足を運びたいと申し出てきた。表世界では生きることが許されない彼らに学院に足を踏み入れさせるのはどうなのか、と私は考えた。しかし、新しい事件現場に警察が向かうと聞いて私は彼女に警察のふりをしてもらうことにした。
彼女は事件現場に行くなり顔をしかめ、古代魔法が使われた痕跡がある、と言ってのけた。犯人はほぼ特定されたも同然なのだ。
 今日はこの後、その報告をするためにテ・アードのトップがここを訪れる。その際に死体欠損の話もしよう。

 2時間後。昼食を食べ終えると、テ・アードのトップ、ナディアさんがやってきた。いつものごとくフードを目深にかぶり、まるで怪しい人物だ。

「報告をしに来たわ。犯人はユイ=シャランよ。但し、措置はとらないこと。そうすればユイの精神が崩壊しかねないわ」
「まあ、彼女が。分かりましたわ。あと、また頼み事をしてもよろしいでしょうか」
「ええ、構わないわよ。どうせやることないもの」
「未解決の連続殺人事件の死体欠損のことですが──」
「……」

 ナディアさんは唇を開きかけたが途中でやめ、固く閉じた。ああ、察しているのかしら。

「人形師の仕業だというのは分かっているわ。でも、無理なの」
「古代魔女でも、ですか? 」
「ええ、そうよ。だって、生き残っているのはヘンリー=チャリオット。両親が人形師で、魔力値は古代魔女の平均の五倍以上。ちなみに彼は誰からも恐れられ、弟子はかなりいたらしいわ。まあ、ほとんど死んだでしょうけれど」
「五倍……」

 古代魔女の平均魔力値。それは確か、現代魔女の平均魔力値の三倍とも言われている。
もし並の現代魔女がヘンリー立ち向かえば、彼らは消し炭にされるだろう。私もされかねない。
 そういえばナディアさんは一体魔力値はいくらなのだろうか。尋ねる前に自ら話してくれた。

「私はね、三倍よ。抑えられる前はもっとあったのだけれども……もう残ってないわ。ヘンリーみたいに人里離れて暮らしていたわけではないから、容赦なく奪われたのよ」
「……」
「しかも彼の弟子にはあのティカもいるのでしょう? 関わったらティカを取り戻すことが夢のまた夢になるわよ」
「……じゃあ、どうすれば」
「手紙を送ってみるわ。返事がなければ彼は私を拒んでいるということになるだろうし、あったとしても……ねえ」

 それほど気難しいのか、と私は落胆した。古代魔女に下手に関わって死ぬのはごめんだ。
 すると、ナディアさんは初めてフードを脱いで私に顔を見せた。その顔には、傷があった。

「私は一度、あることに深く関わりすぎて傷を負った。知り合いだからって油断して、こんなことになったのよ。笑えちゃうわよね」
「……つまり、油断するな、と? 」
「ええ。気を付けてね。治安維持部隊と同じくらい国に重宝されているのよ? あなた、いつ狙われてもおかしくないわよ」
「……」

 ナディアさんは再びフードを被り、魔法で姿を変化させ部屋から去っていった。