神崎美柚の小説置き場。

新しいスマホにやっと慣れてきました……投稿頑張ります

《歪な》運命 第11.5話「優しい悪魔」side.セナ

『セナ、マナ。今からお母さん、大切なお話をするから、しっかり聞いてね』
『うん』『分かった』
『いい子ね、二人共。──二人の魔力特性が分かったらしいの』
『まりょく? 』『とくせー? 』
『魔法には様々な種類があるのだけれども、あなた達が使うのに一番適している魔法。それが魔力特性よ。はい、この紙を見て』
『マナは……まりょく、ぐい? 』
『セナもおなじだよ! 』
『……マナは自分の、セナは他人の魔力を好むの。厳密には違うわ』
『そうなのー? 』『むう』
『でも、今は知らなくていいのよ』

 あの日からもう12年になる。《破滅の》魔女と呼ばれる母親は私達を立派な魔女にしたかったのか、幼い頃から魔法について学ばせた。
 そして魔力特性。最近まであまり深くは考えなかったが、マナに言われ、私は愕然とした。
 ──私達、やっぱりダメみたいね
 どういうことなのかわからなかった。確かに、マナは私と距離をおいていた。それは嫌いだからだろうと少し諦めていた。だけど、違うらしい。
 ──私は人をいつかね、食べてしまうの。
 冗談だろうと私は思った。
 ──あの日、お母さんは私達を騙していた。幼いから傷つけたくなかったのかもしれないけど。あなたは人の魔力だけを、私はね、全てを好むの。
 訳がわからなかった。マナは、優しい顔で混乱する私の頭を撫でた。
 ──今まで、ごめんね、セナ。
 そのあと、マナは学院の外へ姿を消した。
 二度と、帰ってこなかった。
 私はずっと、ずっと、悔やんでいた。

「──セナ? 」

 ベッドでぼんやりしていると、メアリーが起こしに来た。私は起き上がる。
 遂に、テストの日だ。上位クラスには既に5名ほど欠員が出ているらしく、これはチャンスだ。

「さあ、頑張ろう」

 さすがに今日は朝食を食べた。いつもならば苦いお薬のせいで苦しいから食べないのだが、お昼まであまり休憩が無いと聞いたからだ。
 私が食堂で5種類の薬を出していると、横でメアリーが驚いた顔をした。

「すごいね、それ」
「そう、かな」
「まだ飲んでいたんだって思ったの。いつからなの、それ」
「母親の知り合いから勧められてから……気づいた時にはもう飲んでいたかな」
「ふうん」

 母親の知り合いは有名な薬剤師らしい。それも、私みたいに特殊な魔力特性を持つ人を治す専門の。(需要があるのか無いのか分からないのに不思議だ。)
 彼女が私に飲むようにと言ったのは、メアリーにははぐらかしたが、確か10歳ぐらいだ。それまで注射だけで大丈夫だと言っていたのに、急に変わったのだ。
私が薬を飲めるようになったからだろう。それに、薬の方が楽だと言われた。多分、子供心的に注射よりも薬の方がましだと思い込んだのだろう。

「そういえば、実家には連絡してるの? 」
「もちろん。お薬貰わないといけないからね。知り合いのお姉さんは私に合わせて実家に来てくれるのよ」
「へえ。じゃあ、マナとは会うの? 」
「……分かんない。会いづらいから」
「だよね。私は苦手だよ、正直。性格がね……」

 まただ。メアリーは私と再び仲良くなってからマナに対する不満ばかりだ。あの付きまといトリオから何を吹聴されたのだろうか。
 私とマナは双子だ。それを、忘れてしまったのだろうか。

 2日目まで何の問題もなく終わった。実技については実家であのお姉さんからアドバイスを貰わなきゃいけない。
 とりあえず昼食を軽く食べ、私は部屋に戻った。マナが持っていき忘れた荷物をまとめたかったからだ。
 だが、部屋に入ってみると、先にミシェルがいた。思わず目をぱちくりした後、私は笑顔になる。

「あのね、セナ」
「なあに、ミシェル」
「これ」

 渡されたのは封筒。とても、懐かしい香りがする。裏返してみると──マナ、とそっけなく書かれていた。嬉しくて、思わず涙ぐむ。
 だが、その内容は残酷だった。
『セナ、私はもう薬もダメみたい。異常気象は私のせいだよ。《災い》はもう始まっているの。私、このまま、死ぬかも。ナイフが、手放せないの

タスケテ、

知り合いのお姉さんより追記:マナは精神が死んでいると言っても過言ではないわ。読んだらすぐに帰ってくること』
 私は手紙をなおす。

「セナ? 」
「ごめん、ちょっと出かけるから。門限は守るから、多分! 」

 ミシェルにぶっきらぼうに告げ、私は学院を飛び出した。
 《破滅の》魔女である母親は人が嫌いだ。だからこそ、機関からはぐれて王都の端の方に住んでいる。久しぶりに帰ると、出迎えたのは知り合いのお姉さん、ナディアさんだった。

「あら、お帰りなさい」
「はい、ただいま。ところでお母さんやマナは? 」
「お母さんは出掛けているわ。マナは、先程寝たばかりよ」
「……」

 滅多に出掛けない母親が出掛けている。それだけで胸騒ぎがした。

 とりあえずマナに会いたい、と私は言った。だが、ナディアさんは頷かなかった。

「まずは現状を説明するわ。こっちにいらっしゃい」

 実家を出て歩くこと数分。お母さんも所属する、古代魔法管理機構テ・アードに着いた。──マナは、そこまでひどいのか、と私は残念に思った。
 中に入り、応接室で待つよう指示を受けた。誰かを連れてくるみたいだ。
 5分ほどして現れたのは、髪が長い男性。誰なのだろうか。

「初めまして。私は、テ・アードの《災い》研究部門代表であるアギナードと申す者です」
「初めまして」
「早速ですが、マナさんの現状をお知らせします。《災いの》年になって半年が過ぎようとしている今、マナさんの身体に染み付いた呪いがほぼ発動されている状態です。異常気象も、その呪いのせいです」
「……あれ、でも、ほぼっていうことは」
「300年前と違うのは、生まれ落ちた後、一度普通の生活をさせたことです。そのおかげか、理性がまだ抗おうとしています。だから、呪いは完遂されていません」
「あの、私はどうなのでしょうか」
「そうですね……マナさんの変化を見る限り、秋辺りには退学となるでしょうね」
「そんな……」
「これは《災いの》魔女が自分を裏切った国に対する復讐ですからね。年内が期限ですよ。覚悟は決めてください」
「……」

 やっと、分かった。お母さんのついた嘘は、私達を絶望させたくなかったからなんだ。理性を、壊さないためだったんだ。
 アギナードさんの説明を黙って聞いていたナディアさんがそこで口を挟む。古傷が痛むからという理由で笑顔をあまり見せないナディアさんが、珍しく笑顔だ。

「夏期休暇は思いっきり遊びなさい。9月になったらマナと同じように、収容するわ」
「それは早すぎませんか? 」
「アギナード、いくら最新のお薬でも、そろそろダメだと思うのよ。だから、秋になったら収容するべきだわ」
「……はい。了解しました」
「あのっ、帰る前にマナと──」

 立ち上がろうとした二人にマナに会いたいと言おうと思った。だが、途中で二人に睨まれた。

「それは無理だわ。片割れと片割れは呼応しあっているから、会ってしまえばこの世はおしまいよ」
「そんな」

 ナディアさんの言葉で、私はもうマナとは会えないのかと悲しみが溢れだした。