《歪な》運命 11話「テスト──下位クラスの場合」side.ミシェル
メアリーとセナがなぜか仲良くなり、私は困惑していた。だけれども、マリアの側に行くために黙々と勉強しなければいけなかったからどちらも無視していた。
クラスで浮いても構わなかった。上位クラスに上がれなければ、実力主義のこの国でも祖母を知るものが笑うだろう。あれの孫娘はバカだ、と。
私はそうなりたくない。だから、頑張ったのだ。
一日目の放課後。私は昼食を敢えて外で食べることにした。
下位クラスでは今、異様な雰囲気が漂っている。セナやマナのこと、そして上位クラスへの憧れ。それらが入り交じり、皆が皆誰でも敵と見なしてくる。余程仲良しでなければ、邪魔者扱いだ。
メアリーとセナが仲良しになり、私は完全に邪魔者となった。しかも、上位を狙っており、上位に上がれるかもしれない候補の一人だ。当然のことだ。
本来ならば下位クラスは外出禁止だが、このテスト期間中は出ても構わないとされている。学院は祭りの期間と同じく、ルールが守れるのか試しているに違いない。
私はそれを理解していたので、機関が認可した安いのが売りなお店に入った。カウンター席に座り、私は大好きなオムライスを頼んだ。
「ねえ……あなた、ミシェル? 」
隣に座っている女性が話しかけてきた。地味な色のフードを目深に被っており、誰かと思ったが声からしてマナだった。
周りを軽く、怪しまれないように見渡すと、機関の制服を着た職員や学院の先輩達、もちろん同級生もいた。
なので、小声で名前を伏せて話を続けた。
「そうだよ。どうしたの? 」
「私、もう、だめなんだ」
「……どういうこと? 」
「最近ね、お薬を飲んでも、傷をつけたくなるの。……セナには会えないよ。謝れないよ。どうしたらいいのかな」
全身を覆うブカブカの服から少しだけ見えている肌には傷がついていた。見るのも嫌になるぐらい、エグい傷が。
「もしかして、ナイフは……」
「そうだよ。自傷癖があるから持つなとか言われたけれども、ダメなのよ。あの子が」
「落ち着いて。……そろそろ食べ終わらないと。門限があるし」
「ごめんなさい、引き留めて。あの子には謝っておいて欲しいわ。それと、手紙も」
私に手紙を預けたマナはお金を払うと、フードをしっかりと被り、出ていった。
──また会えるといいな。
2日目も順調に終わった放課後。私はマナからの手紙を渡すことにした。テスト期間中に渡したらマズイだろうと思ったのだ。あとは実技があるだけだから、特に負荷もないはずだ。
昼食後、私はメアリーに、セナと二人きりで話すことがあるから部屋にはしばらく戻らないように、と言った。
戻ってきたセナは私を見て目をぱちくりしていたが、すぐに笑顔になった。
「あのね、セナ」
「なあに、ミシェル」
「これ」
手紙を渡すと、セナは差出人の名前を見ただけで涙ぐんだ。本当に連絡も取っていないらしい。
セナは手紙を封筒から取りだし、黙読を始めた。──徐々に、顔が青ざめていく。
「セナ? 」
「ごめん、ちょっと出かけるから。門限は守るから、多分! 」
マナは妹と会いたいのだろうか。そう思っていたとしても、事態は深刻だ。
数時間後。夕食の時間となったが、セナは戻ってこない。メアリーと久しぶりに二人きりとなる。
マナのことはメアリーには言おうかと考えたが、私の知らない過去もある。本当にメアリーがマナと今でも親友ならば良いのだが、それが過去のこととなると裏切られてしまう恐れもあるのだ。
「複雑だよねえ、マナとセナ。私にもよく分かんないや」
「そうだね」
「親が厳しいっていう噂があるんだよね。魔女になることは幼い頃には確定していたとか」
「まさか、貴族じゃあるまいし」
「あはは、噂だからね、噂」
突拍子もないことだ、と私は笑った。
夕食後、私とメアリーはセナを迎えに行った。中々現れなかったが、今まさに門が閉められる、という時にセナは戻ってきた。管理の先生は軽く叱ったが、門限は一応守っているせいか、お咎め無しだった。
セナは何やら荷物を持っていた。本……かな。
「セナ、お帰り」
「……うん」
曖昧な返事。どうやらセナは上の空のようだ。
メアリーはセナに部屋に戻るまでの間、色々と質問をする。大概は適当にあしらわれたが、マナに関する質問になると、セナはメアリーを睨んだ。
「その話、やめて」
セナの目には、ほんの少し涙が浮かんでいた。