神崎美柚の小説置き場。

新しいスマホにやっと慣れてきました……投稿頑張ります

《歪な》運命 第5話「縛り」sideミシェル

 私はこの一週間、ずっと補講だらけの日々を送っていた。さすがに毎日補講はないけれども、それなりの成績が取れないため、課題がかなり出されていた。
 おかげで部屋に戻っても課題ばかりで、あまり仲は深まっていない。
 昨日だって補講があったから、二人とはあまり話が出来なかった。すごく悲しい。
 しかもおまけに、補講対象者にはセナがいた。ものすごく気まずかった。
 朝ご飯はもちろん三人で食べる。セナは起こさなければいつまでも寝る。

「ミシェル、早く補講対象者から抜けてよね」
「分かっているけれど……その」
「難しいのは分かるよ、でもねえ、そろそろ──」
「うん、今週こそ」

 私は演技をやめようと思った。祖母譲りの才能を、ほんの少し見せよう。そう思えるようになった。

「──《覚醒》せよ、偉大なる才能」

 右手首の痣に触れながら、ぽつりと呟いた。

 今日の授業も中々つまらないものだった。祖母がもし、今も活躍していれば私はこんな所にはいなかったはずだ。
 私は今日のテストで合格点ぎりぎりを叩き出した。いきなり高得点だとそれは問題になりかねないので、あくまでも私は頑張ったんですよ、というのを見せるだけに留めた。
 祖母が家を出ていく前に、私に才能を封印した。大きくなるまで覚醒させない方がよい、と私に両親は何度も言い聞かせた。私にふつうの生き方を経験させたかったのだとか。
 私は放課後、再テストの勉強をしているセナを尻目に教室から出た。


 やっと補講から解放されそうだ、という内容の手紙を両親に送ることにした。そろそろ報告しないとまずいだろう。

「あ、手紙を書いているんだ」
「うん。そろそろ両親に現状報告しなきゃなあと思って」
「そ。ねえ、正直さ、マナの事どう思う? 」
「メアリー、急にどうしたの」
「いや。マナがセナを切りつけたからね。やりすぎだなってさ」
「……そんなことをいつ」
「昨日だよ。補講が終わるなり切りつけて……びっくりしたよ」

 本当のことを言っているけれども、目の前のメアリーは私を試している。ずっとマナとセナの双子に振り回されてきたからこそなのだろう。二人がなぜ仲が悪いのかも知っているだろうし、マナが性悪女だというのにも気がついているだろう。
 私はにこりと微笑み、メアリーの気分を害さないように答えた。

「確かにやりすぎだと思う。でも、それだけ嫌いってことなんでしょう? 何があって切りつけたかは知らないけれど」
「うん。そりゃ嫌いだろうねー。ちなみに昨日はセナがマナのノートを盗んだから、だよ」
「へえ……ずるしたんだ、セナ」

 メアリーはついでのように双子の関係性を語り出した。
 長いので要約するのならば──プライドの高い姉とそれを無意識に傷つける妹、といったところだろうか。
 そして頭の良いマナは周りを気にしてしまい、頭の悪いセナは周りを気にせずにのんびりとしている。結局、今のところほぼ同じ成績だ。

 数時間後。何度も何度も手紙を書き直し、ようやく書き終えた。でも、まだマナは帰ってこない。
 私はメアリーに所在を尋ねた。

「マナ、自習室にいるよ。本気になってるみたい。次こそは上位クラスになってやるってさ。本当──」

 メアリーが小さく呟いた。昔からの友達を、バカにするように。

「ありえないよね」


 私は手紙を食堂の隣のポストに投函した後、教室や自習室のある棟へ向かった。マナがあまりにも遅いので、メアリーはバカにした後、心配だよね、と言ったのだ。
 自習室は四階の階段近くにあった。窓から覗くと、人はいなかった。

「あれ……? 」

 入れ違いだとしても、食堂の横を通らなければ帰れない。ならば、まだ棟にはいるはず。
 ドアに触ると、まだ魔法で施錠されていない。つまり、出て行ったのは本当にさっきなのだろう。

「ふざけないでよ! 」

 階下からマナの声が聞こえた。私は階段の途中まで降りて、そっと様子を窺う。
 どうやら、怒りを爆発させている相手はセナのようだ。

「何の話よ。あたしはやっと再テストが終わったの。帰らせてよ」
「はあ? とぼけないでよ。私の恋人をとったのはあなたじゃないの」
「顔が同じなんだから、そんなのどうだっていいじゃない。──でも、姉さんの方が性格悪すぎて嫌になるかもね」
「っ──! 」
「性悪なのは認めるの? 姉さん」
「この──泥棒が! 」
「きゃっ」

 なんと、マナはナイフを持っていた。セナに向かって振り下ろすが、セナはかわす。
 補講の時、喋りかけられたことはあった。しかし、口調は全然違う。普段は猫を被っているのだろうか。

「私、いつもいつもあんたに邪魔されてきた。大事なところで、お前が全て奪っていった。──女子に悪魔って呼ばれていた理由が未だに分かっていないでしょう? 」
「そうね。そんなこともあったかもしれない」
「私は寝るとき以外部屋には戻らないから」
「あたしもそうするわ」

 二人はにらみ合った後、お互いに別々の場所へと歩き出した。
 私はこっそり上がり、部屋に戻ることにした。