神崎美柚の小説置き場。

新しいスマホにやっと慣れてきました……投稿頑張ります

《歪な》運命 第7.5話「理解の差」sideカシュ

 軍事部の仕事を昨日は早めに切り上げ、弟の現状というのを詳しく教えてもらった。──私は次男なのに魔法学院に通っていることには驚きはしなかったが、上位クラスなのにその立場が今危ういということに驚いた。一族の血を引いているのだから、成績はトップに等しくなければならない。
 私は学生時代、常にトップだった。それで周りの人からは嫌われたが、構わなかった。将来は父親の後を継ぐのだから、妥協は許されない。
 次男は魔法学院に通わず、なるべく経済界に進むために経済学部のある学院に通うのが普通だ。なのに、なぜ。しかも、父親を今、裏切っている。
 理解がし難いが、暴走した父親が弟を殺しかねないと思い、付き添うことにした。全く。なぜわざわざ休日に……。

「あら、出かけるの? 」
「すまないな。父さんが人を殺せば結婚が延びるから、仕方ないんだ」
「それなら、止めてきてね」

 元々恋人と過ごす予定だった。でも、仕方ない。これも、結婚のためだ。

 久しぶりに会ったルシュは私に挨拶をしなかった。部屋に入ると私を無視して父親に会釈をし、向き直った。──私は部屋の端で待機をする。

「最近成績が下がっているらしいな」
「はい」
「なぜだ」
「私はきちんと、お父様の言われたとおり頑張っています。この血が流れている限り、負けることなど無いのですから」
「ほう。つまり、自分は天才だと? 」
「ええ」
「ふざけるな! 」

 短気な父親は持っていた銃をルシュに向けた。私はさっと立ち上がり、その銃をおろす。銃は私が預かることになった。
 父親は咳払いをする。

「……ともかく、お前は」
「私からも話がある、ルシュ」

 父親が話し終わる前に先に話さなければならないだろうと思い、私は父親を遮って話し始めることにした。ルシュは一度も手紙を返さなかった。私が嫌いだと示しているのだ。多分、後からは話が出来ないはずだ。
 父親は驚きもせず、さも当然のように少し後ろに下がり私が話すことを許可した。さすがだ。

「なぜ魔法学院に入学した? 」
「──エリーが一人だと嫌がると思うから」
「はあ? それはない。彼女のお兄さんは一度もお前のことを話したことがない。あれほど仲の良い兄妹なのに、お前のことを兄に伝えなかったんだぞ」
「え……? 」

 動揺するルシュ。私は可哀想だとか微塵にも思わない冷血な性格だ。無視して話を進める。

「兄二人はエリーを将来、優秀な魔女にするべく必死に働いている。お前みたいに天才だと言われたら当然のように誇る人ではない。謙虚な人達だ」
「……」
「少ない休みの日はエリーとたくさん話したりして過ごすそうだ。なのに、話題はお前以外の親友のことやエリー自身のことらしい。そうだな──中学生の時のことだ。エリーは数人の親友と町に遊びにいったことを話したらしい。お前のことは綺麗に取り除かれていたみたいだな」
「どういうことですか」
「『アクセサリーを買ってくれたのは嬉しいんだけれども、センスがないの。お兄様、彼女にどう? 』」

 ルシュは驚きのあまり立ち上がった。私を睨み付けようとしたのだろうか。しかし、控えていた父親の圧にやられたらしく、すぐに座りなおした。
 ルシュは私に質問をしてきた。最低限の言葉で済むように、慎重に言葉を選んで。

「エリーは、嫌いなのですか」

 私が頷くと、ルシュの顔が俯いた。よほどショックなのだろう。
 そして、同時に思うだろう。エリーは自分のことを今でもひたすらに邪魔者だと思っているのではないだろうかと。
 父親が立ち上がる。そして、ルシュの横に立つ。かなり身長の高い父親。ルシュをそれだけで威圧するのに十分すぎるぐらいあった。

「お前の退学の期限は3年の秋だ。それまでに改善していなければ、退学と同時に縁を切ろう」
「分かりました」

 ルシュは最後は落ち着いて返事をした。