神崎美柚の小説置き場。

新しいスマホにやっと慣れてきました……投稿頑張ります

《歪な》運命 第7.5話「理解の差」sideカシュ

 軍事部の仕事を昨日は早めに切り上げ、弟の現状というのを詳しく教えてもらった。──私は次男なのに魔法学院に通っていることには驚きはしなかったが、上位クラスなのにその立場が今危ういということに驚いた。一族の血を引いているのだから、成績はトップに等しくなければならない。
 私は学生時代、常にトップだった。それで周りの人からは嫌われたが、構わなかった。将来は父親の後を継ぐのだから、妥協は許されない。
 次男は魔法学院に通わず、なるべく経済界に進むために経済学部のある学院に通うのが普通だ。なのに、なぜ。しかも、父親を今、裏切っている。
 理解がし難いが、暴走した父親が弟を殺しかねないと思い、付き添うことにした。全く。なぜわざわざ休日に……。

「あら、出かけるの? 」
「すまないな。父さんが人を殺せば結婚が延びるから、仕方ないんだ」
「それなら、止めてきてね」

 元々恋人と過ごす予定だった。でも、仕方ない。これも、結婚のためだ。

 久しぶりに会ったルシュは私に挨拶をしなかった。部屋に入ると私を無視して父親に会釈をし、向き直った。──私は部屋の端で待機をする。

「最近成績が下がっているらしいな」
「はい」
「なぜだ」
「私はきちんと、お父様の言われたとおり頑張っています。この血が流れている限り、負けることなど無いのですから」
「ほう。つまり、自分は天才だと? 」
「ええ」
「ふざけるな! 」

 短気な父親は持っていた銃をルシュに向けた。私はさっと立ち上がり、その銃をおろす。銃は私が預かることになった。
 父親は咳払いをする。

「……ともかく、お前は」
「私からも話がある、ルシュ」

 父親が話し終わる前に先に話さなければならないだろうと思い、私は父親を遮って話し始めることにした。ルシュは一度も手紙を返さなかった。私が嫌いだと示しているのだ。多分、後からは話が出来ないはずだ。
 父親は驚きもせず、さも当然のように少し後ろに下がり私が話すことを許可した。さすがだ。

「なぜ魔法学院に入学した? 」
「──エリーが一人だと嫌がると思うから」
「はあ? それはない。彼女のお兄さんは一度もお前のことを話したことがない。あれほど仲の良い兄妹なのに、お前のことを兄に伝えなかったんだぞ」
「え……? 」

 動揺するルシュ。私は可哀想だとか微塵にも思わない冷血な性格だ。無視して話を進める。

「兄二人はエリーを将来、優秀な魔女にするべく必死に働いている。お前みたいに天才だと言われたら当然のように誇る人ではない。謙虚な人達だ」
「……」
「少ない休みの日はエリーとたくさん話したりして過ごすそうだ。なのに、話題はお前以外の親友のことやエリー自身のことらしい。そうだな──中学生の時のことだ。エリーは数人の親友と町に遊びにいったことを話したらしい。お前のことは綺麗に取り除かれていたみたいだな」
「どういうことですか」
「『アクセサリーを買ってくれたのは嬉しいんだけれども、センスがないの。お兄様、彼女にどう? 』」

 ルシュは驚きのあまり立ち上がった。私を睨み付けようとしたのだろうか。しかし、控えていた父親の圧にやられたらしく、すぐに座りなおした。
 ルシュは私に質問をしてきた。最低限の言葉で済むように、慎重に言葉を選んで。

「エリーは、嫌いなのですか」

 私が頷くと、ルシュの顔が俯いた。よほどショックなのだろう。
 そして、同時に思うだろう。エリーは自分のことを今でもひたすらに邪魔者だと思っているのではないだろうかと。
 父親が立ち上がる。そして、ルシュの横に立つ。かなり身長の高い父親。ルシュをそれだけで威圧するのに十分すぎるぐらいあった。

「お前の退学の期限は3年の秋だ。それまでに改善していなければ、退学と同時に縁を切ろう」
「分かりました」

 ルシュは最後は落ち着いて返事をした。

《歪な》運命 第7話「堕落」sideマリア

 5月中頃。自殺事件の1ヶ月後にあたるこの日、私はルシュに呼ばれ、自習室にいた。
 本来ならば、いつものような楽しい週末を過ごすのだが、先週からルシュは自習ばかりしている。そのことが気にはなっていたけれども、どうして呼び出したりするのだろう。

「ルシュ、私より頭良いのにどうしたの?」
「……そんなことはないさ」

 ただひたすらに暗いルシュ。確かに、最近ではテストの点数が下がっている。
 元々、私とルシュの実力はかなり差があった。でも、長くは続かなかった。とうとう私達より下になってしまった。

「兄も父もよく手紙をくれるんだ。最初は励ましの文章ばかりだったのに、段々とお前も機関の軍事部で活躍できるよう上位を維持しろって……指示するかのような文章になってさ……」

 ルシュのお父さんはとても名の知れた軍人だ。誇り高き家柄を受け継ぐための教育を幼い頃から受けた人で、かなり真面目でお堅いらしい。
 一方のお兄さんもその後を継ぐべく、こちらも頑張っているという。この間、機関の軍事部の補佐官(3番目に高い位)にまで上り詰めたらしい。

「活躍ぶりは新聞を見れば分かるというのに……なぜわざわざ手紙に書くのか、それも分からない」
「ルシュ……」

 ルシュはいつの間にか泣いていた。いつもなら見せない涙。二人きりなので、本音が出てしまったのだろう。

「このままでは、堕落してしまう……! 」
「ルシュ、落ち着いて」

 ルシュは昔からちやほやされてきたのだろう。天才の家系に生まれてきたのだから、当然だ。ルシュの生まれたときには厳格なルシュの祖父は亡くなっていたらしい。だからこそ、ルシュはここまで堕落したのだ。
 ──いや、本人にも問題はある。

「ルシュ、言わせてもらうけども、努力したの? 」
「したさ! 」
「──そうは見えなかったわ」
「……根拠は何だ」
「だって、あなた、うぬぼれているでしょ」
「──!? 」

 入学試験。それは、あくまでも紙の上で受ける、常識にまつわる試験だ。そこで上位を取っても、努力を忘れてしまえばすぐに堕落するのだ。
 ルシュもそうなのだ。私やリナの努力の影で、彼がしていたこと。それは努力ではなかった。
 エリーに聞いたが、昔から努力しないらしく、どちらかと言えば嘲り笑うグループにいたらしい。エリーは幼なじみだから裏切る事なんて出来やしない、と今まで我慢してきたのだ。

「自惚れている……? ハハハッ、兄さんじゃあるまいし、ありえないよ……」

 ルシュの中で何かが崩壊したのだろうか。ルシュは床に座り込み、俯き、独り言を呟いている。
 ──いつの間にか、自習室の入口が開いており、そこにはエリー達が立っていた。エリーは当然のように怒っていたし、あとの二人は信じられないといった顔つきだ。

「エリー……? 」
「明日、あなたのお父様とお兄さまが成績のことであなたと話がしたいそうだから、了承しておいたわ」
「そんな、勝手に……」

 エリーは冷たい声で言い放つと、近づいてからルシュの右頬に一回、左頬に一回、ビンタをくらわした。ルシュは驚いている。

「幼なじみだから、今までずっと、見逃していた。でも、もう、許さない、……許さないんだから」

 エリーはそれを言うと、走り去ってしまった。私はルシュに哀れみの視線を送り、後にした。

 エリーとルシュの父親は昔からの学友だった。そして、エリートの家だった。二人とも、卒業後は軍人の道に進んだ。だが──努力で全てを得た人間と、ほぼ努力無しで全てを得た人間の差はあまりにも大きかったのだ。エリーの父親はすぐに挫折。ルシュの父親は見事に出世した。エリーは近くでその二人を見て育った。ルシュは兄に育てられたという。
 エリーは兄二人のおかげで貧しい暮らしは避けられたが、ルシュの兄によりルシュが勘違いをしていくのを横目で見ることとなってしまった。いや、ルシュが兄の話を単純に都合よく解釈したというのが正しいのかもしれない。
 ともかく、成功しなかった父親に育てられたエリーはまっすぐに育ち、成功した父親と兄に育てられたルシュは歪んでしまった。エリーはこのことを泣きながら話してくれた。

「兄にルシュの事を一度も話さなかったのは、曲がったことが嫌いな兄ならルシュを殺すかもしれないって思ったからなの。あと、それはなくても離されてしまうかもしれないって」
「でも、エリーは嫌いだったんでしょ?」
「あっちがその気だったし、幼馴染なんだから辛いの。もし離れたらどうなっちゃうのかなって」

 エリーは幼馴染という言葉に縛られているようだった。でも、それは過去のことのような気がする。さっきの仕打ちは縛られている人のものではなかった。

「私はね、そんなことを小学生の時は考えていたの。けれども、中学生になって新しく出来た友達はルシュを見るなり『嫌な奴。あんなのとよくいれたよね』って悪態をついたわけ。まあ、確かにそうだよねとは思ったけど、ルシュの目の前だから『幼なじみなんだもん、当然でしょ』って取り繕ったら『偽善者ね、あんたは』とか言われて、何だかすっきりしたの」
「今まで否定されたことがなかったから、ね」

 エリーはゆっくりと頷いた。

《歪な》運命 第6.5話「秘密」sideアキナ

 私はムアーナの秘密を探るべく、魔法学院を管理する学院管理部を訪れた。唯一機関の敷地外にある組織。アポイントメントは私ですら取りにくい。交渉にかなり時間がかかった。
 出てきたのはここのトップとも呼べる長官だ。

「ムアーナの履歴、ですか」
「はい。もうかなりになるので、気になりまして」
「まあ確かにそうですね。いくら本人の意志とは言っても、何かあれば我々の責任です。なので、幾度となく止めたのですが……本人は頑なに拒みました」
「なるほど」
「これが履歴ですよ。かなり長寿の民族らしくて、もうかなりになるのだとか」
「ふうん」

 履歴書はあちらこちらが空白だった。家族、そして生まれた年。出身地も空白だ。民族も空白。つまり、彼女は機関の誰にも自分のことを教えていないのだ。
 これでよく採用されたな、と思ったが、彼女は魔法学院を卒業する時に《全要素の》魔女として称えられていたから関係がないのだろう。

「履歴書は全く更新しない主義らしくて……困りましたよ、本当に。それにおかしいです」
「私もそう思うわ。更新しないのはおかしい。これ、借りてもかまわないかしら」
「もちろん。12月の更新日まで返して下さいよ」

 かなり寛容だと思った。やはり、彼らもミステリアスなムアーナに困っているのだろう。


 私が戻ったときにはもうティータイムの時間をとっくに過ぎていた。かなり距離があるため、戻るのにも時間がかかるのだ。それを失念していた。

「おや、叔母上」
「──随分暇そうね」
「甥であるこの私をそんな冷たい目で見ないでくれますか!? 」
「どうせまた婚約が失敗するのに、よく頑張るわねって思ったのよ」
「……」
「それと、この時間なのに私の部屋に居座るだなんて。国王補佐官にあるまじき事態よ」
「居座るとは失礼ですね。私は元々、婚約者のエリザのお家を訪問していたんです。でも、その後に叔母上とティータイムを過ごすべく来たらいなかったんです! 」
「待たなくてもいいじゃないの。それに、エリザとティータイムを過ごしてきたら良かったのに」
「愚民がいたんです。そんな場所にはいれません。あと、ユイもいました」
「あらあら。それは気まずいわねえ。今からティータイムする? 」
「はい」

 彼は少し嘘をついている。この私の部屋に来たのは、粗探しのためだ。機関が国を転覆する計画を立てていないか──というのを案じているのだ。
 それが分かるのはなぜか?──ほんの少しだが、部屋の中の書物がずれていたりしているからだ。彼は補佐官としての腕はまだまだだ。
 カモミールティーとお菓子を用意し、ささやかなティータイムを始める。

「あの、叔母上」
「何かしら」
「本日はどちらに」
「学院管理部」
「──用件は」
「ムアーナのこと。見たければどうぞ。あなたも国の役員だものね」
「は、はい」

 渡された履歴書を眺め、彼はすぐに顔をしかめた。ムアーナがどれほど優秀か知らなければこのような反応をするのだろう。
 彼はすぐに履歴書を私に返した。

「よく受かりましたね」
「《全要素の》魔女だもの」
「! 」

 驚きを隠せないという顔をする。まあ、彼の世代では彼女はもう伝説化しているのだろう。
 だが、次の言葉は予想外のものだった。

「──《全要素の》魔女だなんて、ありえませんよ」

 そう言って、ムアーナを嘲り笑う。私は甥に憤りを感じた。それを抑えて質問をする。

「なぜかしら」
「なぜって? 簡単です。彼女は全てを偽っていますから」
「──どういうことなの」
「これ以上は国家機密レベルの秘密です。話せば母上に殺されますね」
「……どうして、王妃である彼女まで」

 私と目の前にいる男の母親の仲は冷え切っている。始まりは婚約話からなのだが、私は姉より先に婚約話を決めてしまった。優柔不断な姉が悪いとは思うのだが、プライドの高い姉は認めなかった。私が先だ、と。
 結局、姉の婚約話が決まり、結婚式も終えた後私と婚約者だった今の夫は結婚した。(夫は困惑していたけどもね)姉は結婚式にも来ず、今も私とは会わない。手紙もやり取りしたくないレベルだ。
 甥はクスリと笑った。どれほど仲が悪いのかを知っているのだ。

「じゃあ、さよなら」


 夕方に屋敷に戻っても、王妃が関わっており、尚且つ国家機密レベルの秘密を抱えているというムアーナの事が気にかかった。
王妃となった姉は、やたらと民族の多いこの国で、以前から気になっていたらしい民族の研究をし出した。確かに、ムアーナの民族欄は空白だ。ぱっと見どこの人なのかも分からない。特徴がない。
 王妃はそのことを調べているのかも知れない。下手すればもう知っているのかも知れない。

「御母様」
「あら、どうしたの」
「先ほどから何か考えておられるようですが、悩み事ですか? 」
「ん、ちょっとね」

 娘は私にそっと食後のアイスティーを持ってきて、机に置いた。相変わらずの無表情だった。
 諜報部隊に入った娘は無表情を極めていた。王宮内では大臣に不気味だと言われてしまわないように、表情を作っているのだとか。
 家では息抜きの為だからと表情筋は基本的に動かさない娘。それでも、優しい。それに甘えて少し質問をしてみた。

「王妃って普段は何しているの? 」
「王妃様は基本的にお部屋に籠もっています。お仕事は何もありませんので、趣味を楽しんでいるようですわ」
「そうなのね。引き籠もりになっちゃったかあ」
「ある意味そうですわね」

 少し笑う。彼女は諜報部隊にいる。深入りすれば、家族とはいえども殺されてしまう。
 私は娘におやすみなさい、と言った。娘もオウム返しのようにおやすみなさい、と言った。
 ──珍しく、笑っていた。

「さて、と。私もアイスティー飲んだら寝なくちゃ」

《歪な》運命 第6話 「異常事態」sideユイ

4月の暮れ
 貴族の娘の自殺というのは貴族クラスではかなり話題になり続けた。私達も例外ではない。
 しかも、彼女の家柄は中途半端だった。兄の犯罪の有無以前に、家は王宮貴族でもなければ、諸侯貴族でもない、改革派貴族だった。
 改革派貴族は二つの間にある貴族で、常に上と下の仲を取り持ったり、おかしいと思うことを改革していく。それ故に冤罪にかけられやすく、我が国ではかなり弱い。
 学院にも改革派貴族の子供というのはいるが、さすがに学院は排除しなかった。これも無関係だからと言い張るのだろう。
 私の周りの大きな変化と言えば、ナーシャがやたらと私を避けだした事だ。おかげでノアとはちっとも話せない。
 でも、私には関係ない。

「こんにちは」
「あら、エリザじゃないの」
「今日は私のお家でティーパーティを開こうと思うのだけれども、どうかしら」
「もちろんですわ」
「良かったわ」

 私はナーシャとノアが離れた代わりにエリザという王宮貴族の娘と仲良くなった。彼女は父親が大臣のトップらしいが、気取ることはせず、常に笑顔で優しい。

 私はエリザのお家に向かった。王宮貴族はやれ庭園だのやれ離れだのとにかく派手なのだが、彼女のお家は他の貴族とは何ら変わりがなかった。だから私も安心できる。
 だが、やはり階級の壁は大きい。私は未だにエリザに対して敬語ではないと怒られてしまう。私の父親は貴族だが、別に王宮には勤めていない。だからなのだろうか。

「私は階級なんて窮屈でいらないものだと思いますの」
「エリザ様、確かにそうですわね」

 エリザの言葉に賛同したのは貴族の端くれの娘。エリザなんて雲の上の存在、貴族の社交界にすら入れない、そんな貴族の子供は様をつける。
 エリザも階級について不満があるらしい。確かに、エリザと同等の人は少ないし、上となれば王族とごく少数の貴族だ。このようなティーパーティ以外ではあまり気楽に話せる相手などいないのだ。

「私はね、お父様の後を継いだらややこしい階級をなくすわ。貴族の中で争うだなんて、そんなのおかしいもの」
「流石ですわ」
「素晴らしいですね」

 にこりと微笑むエリザに私達は口々に賛同し、褒める。本人はあまり良くは思わないが、褒めなければ自分たちの家の明日はない。
 すると、ティーパーティを楽しんでいる小さな庭園に似つかわしくない男が突然現れた。あの勝ち誇ったような笑みは完全にあの男だ。

「やあ、エリザ」
「──何かしら」
「君と婚約できて本当に嬉しいよ」
「あら、そう」
「今日はパーティがあるのだろう? ならなぜのんびりと愚民に付き合っているのだ」
「愚民ではありませんわ。彼らも立派な貴族のご子息、ご息女ですわ」
「そうは見えないなあ──おや、君もいるのか、ユイ」

 彼は私を見てにやりと笑った。これが嫌いなのだ。

「あの時の剣幕は凄かったなあ。まさか、婚約を自ら破棄するなんて。無礼の極みだと今でも思っているよ」
「まあ、ユイ。彼との婚約を破棄したの? 」
「──ええ。エリザ、私はこのような男とは到底釣り合わないと考えたのですわ」
「そうだったのね」

 この男はエリザより一つ階級が上だ。王様の補佐官をしており、27歳なのだが、このとおり他人を貶す以外能がないため、これまで婚約は上手くいっていない。どれも相手が怒って破棄している。
 私も彼に貶された。あの時はまだ補佐官成り立てということもあり、私の父親は少し疑心暗鬼で構えていた。それは当たっていた。私のことを──思い出すのも嫌なぐらい、酷い言葉で貶された。

「とにかく帰ってちょうだい」
「はは、つれないねえ」

 彼はこのメンバーの中で一番階級の低い人をにらみ、出て行った。彼は階級の低い人を人間とは見なさない最低最悪な奴だ。

「彼はこの私を怒らせましたわ」

 笑顔でさらりと怖い事をエリザは言った。


 お開きになり、私は学院に戻った。──ナーシャと廊下で遭遇する。まあ当然だ。部屋は私、ノア、ナーシャ、と順位で並んでいるのだから。
 ナーシャは私を睨んだ。彼女は普通の貴族だ。エリザとティーパーティをしたというのが羨ましいのだろう。

「──本当に、醜い人」

 私は目を見開く。そう言い残すと、ナーシャは部屋に戻った。
 私は聞いたことのある言葉に、感情が動いてしまった。醜い、醜い、醜い……? あなたも私を、私を──。

《歪な》運命 第5.5話「おかしな話」sideアキナ

 昨日、案の定放置されていた自殺した女子生徒の部屋に入った。担任の語っていた優秀な生徒というのが本当ならば、整理整頓が行き届いているのがふつうだろう。
 ところが、それとは真逆で、勉強道具だけはきちんと片づいていたのに、それ以外の物が雑多に置かれていた。──壁にはたくさんの新聞の記事もあった。それらは、全てが連続強盗殺人事件の記事だった。
 青少年は名字のないまま、周りに疎まれることなどなく、ここで過ごす。それが裏目にでも出たみたいだ。
 彼女が帰らなかったのは真面目だからではない。汚れてしまうのをおそれたからだ。何とも身勝手だ。

「ん、これは……」

 窓の近くに行くと、そこは血だまりとなっていた。時間が経っている為乾いているが、彼女は飛び降りる前にここで自殺を試みたようた。
 しかし、転がっている安物のナイフの刃を見る限り、血は大量に出せたが死ねきれなかったようだ。そこで確実に即死する飛び降りを選んだわけだ。

「アキナ様、壁に文字が……」
「な……」

 飛び降りる前、書いたのだろうか。窓の側の壁には──『アニノタメニ フクシュウシテヤル』、と血で大胆にかかれていた。

「床に落ちている新聞の切り取りも、どうやらあの連続強盗殺人事件と関連する記事だけのようです」

 学院は新聞を二社から取り寄せている。その新聞だけではなく、この都で一般的な新聞もあった。

「やたらと新聞を集めていると思ったら……」
「まさかあの男の妹だったなんて……」
「……気持ち悪い」

 入り口にいた野次馬、もといクラスメートの貴族達が口々に感想を小さな声で話し出す。一部しか聞き取れなかったけれども、皆、強盗殺人犯の妹だったと知ると、軽蔑の眼差しをおくるようになったみたいだというのは分かる。


 私はその後早々と撤退した。気になったので、今日は奥様との話の後、強盗殺人事件のことも調べようと考えた。
 奥様は泣きながら部屋に入ってきた。
 ソファに座るよう促し、私達はソファに座った。

「夫は無罪ですわ! 」
「根拠がおありで? 」
「これを見て下さい! 」

 見せられたのは学院勢力図。書きかけなのか、空白がある。

「夫はずっと調べていました。学院には何かありそうだ、と私に言ってくれましたもの」
「……それであのとき、積極的に学院長になろうとしたわけですか」
「ええ。夫は追放処分が決まった後、地方にいる貴族相手に酒場をオープンしました。その際、追加情報を仕入れていたのですわ」
「へえ」
「──更に言うならば、夫は殺害されましたの」
「ああ、なるほど。ゆすりをかけたのですね」
「ええ」
「……怪しいのは数名いましたね。中でも大魔女・ムアーナは無表情で、悲しみすらしませんでした」
「ムアーナがまだいるのですか? 」
「みたいですね」

 勢力図は彼が学院長になった30年前からのものだ。この頃からムアーナは教師として教壇に立ち続けている。
 大概の魔女の教師としての寿命は10~20年とされている。それほど厳しく、ムアーナのようにずっと立ち続けているのは本来ならば不可能だ。
 しかし、彼女は大魔女と呼ばれ、尊敬されてきた。魔力は人並み以上なので、教師として活かすのは正解かもしれない。
 すると、目の前の奥様が首を傾げた。

「おかしいわ。彼女、私と5年前に会ったときにそろそろ辞めようかしらって笑っていたはずなのに……」
「その理由は? 」
「体力の限界がそろそろきたみたいだわ、って」
「……そんな嘘を」

 ムアーナはまだまだ元気だ。魔法で若返っているとはいえ、異常とも言えるレベル。
 目の前の奥様は涙を拭い、勢力図の書かれた紙を机の端に寄せる。話題を変えるつもりなのだろう。

「あの、自殺者が出たとは本当でしょうか」
「──ああ、そのことですか」
「はい。夫のいた学院ですので、気になりまして」
「自殺した彼女のお家は機関から、はぐれている貴族でした。そのことが理由であの連続強盗殺人事件の真犯人との争いには負け、再び彼女の兄は犯人にされたところでした。とても悲しんでいたと同時に機関を恨んでいたようですわ」
「あなたはどう思われましたか? 」

 奥様は私をまっすぐに見てきた。流石、聡明なお方だ。学生時代から頭の回る賢いお方だと知られていただけはある。
 私は慎重に答えた。

「もちろん、間違っていると思いましたわ。でも、私は無力です。いくらトップとは言えども、貴族のしきたりには介入できませんから」
「変えるおつもりはありませんのね」
「はい。遺族には申し訳ないと感じております」
「そう。もし、兄まで自殺したらあなたはどうするのかしら」
「──それは」
「ありえないことではないのよ。彼は冤罪にかけられているもの。いつしか心を病むでしょうね」
「ごもっともですわ」

 私は悩んだ。今から裁判所に駆け込んでも遅い。それどころか、私を無能呼ばわりするだろう。
 奥様は勢力図をバッグの中にいれ、静かに立ち上がった。

「あなたには夫の無念をぜひ、晴らしてもらいたいわ」
「はい。そうさせていただきます」
「あと、あの事件も。大きな証拠さえあれば、きっと覆せるわ」

 奥様は笑顔で去った。


『連続強盗殺人事件は主に商人の家が狙われた。3件の事件で殺害された被害者は改革派貴族とは親交があり、それ故に犯人は改革派貴族ではないかと当初から考えられた。しかし、逮捕された男はよりにもよって平民に罪を押し付けたのだ。平民はもちろん無罪を主張している。』

 私はまとめられた文章を読む。内容はかなりひどい。改革派貴族は未だに受け入れてはもらえず、安定した暮らしを望む平民からも嫌われている。この計画都市の何を改革するのか? と多くの人は思っているのだろう。
 外のことを知らない計画都市の住民が昨今は増えてきた。この計画都市の周りはそこそこの都市で囲まれており、平和なのだ。だが、少し先に行けば砂漠があり、未だに苦しい生活の人もいるらしい。学院の二つの支部が中々建たなかったのも、住民がこれ以上苦しめるなと文句を言ったからだったりする。
 改革派貴族は外のことも理解している古株の貴族だ。中には民族的に違うのもいるだろう。
 私はふと、ムアーナと最後に会ったときのことを思い出す。私が機関のトップに就任した50年前だ。私は32歳だったが、ムアーナはあの時何歳だったのだろうか。
 トップ就任時まで機関で共に働いてきたムアーナ。私の父親の急死により私はトップに、ムアーナは働き続け、いつの間にか教師に転身していた。
 あの日、馴染みの酒場で私達は小さな祝杯をあげた。

『アキナ、おめでとう』
『ムアーナ、わざわざありがとうね』
『いいのいいの。これからはアキナ様、だね』
『まだ慣れないなあ……』
『あはは、でも、凄いよ』
『でも、お父さんの仕事を受け継いだだけだから、別に……』
『私もそろそろ研究に打ち込むか何かきちんと決めないとなあ』
『ムアーナは皆から頼りにされているじゃないの』
『そうかな』

 明るくて気さくな人。それが当時のムアーナだった。ムアーナはいつしか、機関に赴くことすらしなくなった。
 私は、ムアーナについてあまり知らない。私が機関に所属した時からいるからかなり高齢でないとおかしい。
 ──一体、何歳なのよ。

《歪な》運命 第5話「縛り」sideミシェル

 私はこの一週間、ずっと補講だらけの日々を送っていた。さすがに毎日補講はないけれども、それなりの成績が取れないため、課題がかなり出されていた。
 おかげで部屋に戻っても課題ばかりで、あまり仲は深まっていない。
 昨日だって補講があったから、二人とはあまり話が出来なかった。すごく悲しい。
 しかもおまけに、補講対象者にはセナがいた。ものすごく気まずかった。
 朝ご飯はもちろん三人で食べる。セナは起こさなければいつまでも寝る。

「ミシェル、早く補講対象者から抜けてよね」
「分かっているけれど……その」
「難しいのは分かるよ、でもねえ、そろそろ──」
「うん、今週こそ」

 私は演技をやめようと思った。祖母譲りの才能を、ほんの少し見せよう。そう思えるようになった。

「──《覚醒》せよ、偉大なる才能」

 右手首の痣に触れながら、ぽつりと呟いた。

 今日の授業も中々つまらないものだった。祖母がもし、今も活躍していれば私はこんな所にはいなかったはずだ。
 私は今日のテストで合格点ぎりぎりを叩き出した。いきなり高得点だとそれは問題になりかねないので、あくまでも私は頑張ったんですよ、というのを見せるだけに留めた。
 祖母が家を出ていく前に、私に才能を封印した。大きくなるまで覚醒させない方がよい、と私に両親は何度も言い聞かせた。私にふつうの生き方を経験させたかったのだとか。
 私は放課後、再テストの勉強をしているセナを尻目に教室から出た。


 やっと補講から解放されそうだ、という内容の手紙を両親に送ることにした。そろそろ報告しないとまずいだろう。

「あ、手紙を書いているんだ」
「うん。そろそろ両親に現状報告しなきゃなあと思って」
「そ。ねえ、正直さ、マナの事どう思う? 」
「メアリー、急にどうしたの」
「いや。マナがセナを切りつけたからね。やりすぎだなってさ」
「……そんなことをいつ」
「昨日だよ。補講が終わるなり切りつけて……びっくりしたよ」

 本当のことを言っているけれども、目の前のメアリーは私を試している。ずっとマナとセナの双子に振り回されてきたからこそなのだろう。二人がなぜ仲が悪いのかも知っているだろうし、マナが性悪女だというのにも気がついているだろう。
 私はにこりと微笑み、メアリーの気分を害さないように答えた。

「確かにやりすぎだと思う。でも、それだけ嫌いってことなんでしょう? 何があって切りつけたかは知らないけれど」
「うん。そりゃ嫌いだろうねー。ちなみに昨日はセナがマナのノートを盗んだから、だよ」
「へえ……ずるしたんだ、セナ」

 メアリーはついでのように双子の関係性を語り出した。
 長いので要約するのならば──プライドの高い姉とそれを無意識に傷つける妹、といったところだろうか。
 そして頭の良いマナは周りを気にしてしまい、頭の悪いセナは周りを気にせずにのんびりとしている。結局、今のところほぼ同じ成績だ。

 数時間後。何度も何度も手紙を書き直し、ようやく書き終えた。でも、まだマナは帰ってこない。
 私はメアリーに所在を尋ねた。

「マナ、自習室にいるよ。本気になってるみたい。次こそは上位クラスになってやるってさ。本当──」

 メアリーが小さく呟いた。昔からの友達を、バカにするように。

「ありえないよね」


 私は手紙を食堂の隣のポストに投函した後、教室や自習室のある棟へ向かった。マナがあまりにも遅いので、メアリーはバカにした後、心配だよね、と言ったのだ。
 自習室は四階の階段近くにあった。窓から覗くと、人はいなかった。

「あれ……? 」

 入れ違いだとしても、食堂の横を通らなければ帰れない。ならば、まだ棟にはいるはず。
 ドアに触ると、まだ魔法で施錠されていない。つまり、出て行ったのは本当にさっきなのだろう。

「ふざけないでよ! 」

 階下からマナの声が聞こえた。私は階段の途中まで降りて、そっと様子を窺う。
 どうやら、怒りを爆発させている相手はセナのようだ。

「何の話よ。あたしはやっと再テストが終わったの。帰らせてよ」
「はあ? とぼけないでよ。私の恋人をとったのはあなたじゃないの」
「顔が同じなんだから、そんなのどうだっていいじゃない。──でも、姉さんの方が性格悪すぎて嫌になるかもね」
「っ──! 」
「性悪なのは認めるの? 姉さん」
「この──泥棒が! 」
「きゃっ」

 なんと、マナはナイフを持っていた。セナに向かって振り下ろすが、セナはかわす。
 補講の時、喋りかけられたことはあった。しかし、口調は全然違う。普段は猫を被っているのだろうか。

「私、いつもいつもあんたに邪魔されてきた。大事なところで、お前が全て奪っていった。──女子に悪魔って呼ばれていた理由が未だに分かっていないでしょう? 」
「そうね。そんなこともあったかもしれない」
「私は寝るとき以外部屋には戻らないから」
「あたしもそうするわ」

 二人はにらみ合った後、お互いに別々の場所へと歩き出した。
 私はこっそり上がり、部屋に戻ることにした。

《歪な》運命 第4.5話「事件」side学院長

 入学の儀から早一週間。既に庶民の下位クラスに属する数名を地方の学院に送った。全く……困ったものだ。
 私は激務に疲れ、週末であるこの日、ついつい職員棟二階の森の近くにある休憩スペースで眠ってしまった。
 すると、額にひんやりとした感触があった。思わず飛び起きる。

「学院長、まさか寝ていたのですか? どうりで呼んでも起きないはずね」
「いいから早く指を離せ、凍傷になる! 」
「ふふ、本当におもしろい人ねえ」
「凍る! 凍るからやめろ! 」
「はいはい」

 俺を指からの氷魔法だけで起こしたのは五年生の上位クラスを担当するムアーナ。事あるごとに、学院長である私をからかう困った奴だ。
だが、魔法は優れており、もうどれほどここにいることすら分からないぐらい在籍している。
 指を離した後彼女は躊躇せずに私の横に座る。持っていた飲み物を魔法で冷やし、飲む。

「学院長、今年は例年より厳しいですよね。このままだと、少数精鋭になりそうですけれど」
「なにせ私は雇われ学院長だからな。機関から派遣され、この若さで学院長だ。学院の教師全員の前で行われた就任式の時は目線が痛くてたまらなかったよ」
「つまり、これは」
「機関の意思だ。機関は掟を破るのが貴族の子供ばかりだということに着目し、貴族を減らした」
「へえ、いつかみたいな争いを避ける為、かしら」
「……そうだろうな」

 一昨年の争いには学院長までもが巻き込まれた。彼はとても優しく、再三助けを求める青少年を無視したくなかったのだろう。おかげで助かったが、学院長本人は介入をしたことにより、裁判にかけられた。
 結果的に死刑ではなかったが、機関から追い出された上に、この街からも追い出されてしまった。彼の家族は幸せに満ち溢れていたのに不幸へと落ちてしまった。
 昨年は代理がいたが、今後の事を考え、機関からとりあえずの学院長が派遣されることになった。ちなみに私はなりたくもないのにいつの間にか選ばれてしまった。

「称号無しの落ちこぼれを学院長にするなんて、機関もバカだと思っていた。だが、私はどうやら利用される為だけにここにいるようだと気づいたときには落ち込んださ」
「ふうん」
「すまない、愚痴ばかりで」
「いいのよ、別に。教師である私達も機関の介入を疑っていましたから」

 ムアーナは私に一瞥することもなく立ち上がり、去ってしまった。しかも、鼻で笑われた。
 彼女は、どうやら未熟者の私を軽蔑しているようだ。

 それから小一時間。私は特に何をするでもなく、学院長室にいた。そろそろお昼時かと思い、立ち上がると悲鳴が聞こえた。
 すぐさま窓を開け、外を見る。

「あれは……」

 試練の森の近くに血だまりがあった。そこには、学院の制服を着た生徒が横たわっていた。あの血の量では助かりはしないだろう。
 私は窓を無言で閉める。関わることは許されていない。許されているのは、一部の者のみだ。
 その人が幸い、気づいたのか遺体を運ぶ。悲惨な光景に野次馬はいない。


 その後、私はその時敷地内にいた教師と共に機関の本部に呼ばれた。週末ということからいなかった教師も多く、いたのは実家が遠かったり、最早この学院が家となっていたりする教師だった。
 私達は機関のトップであるアキナ様と他数名の機関の重役のいる部屋に集められた。座るやいなやアキナ様は話し始めた。

「亡くなっていたのは、二年生の貴族クラスの生徒の一人です。先ほど、ご両親に確認したところ、彼女とはもう一年も会っていなかったそうです。さて、担任はあなたでしたね、フィン」
「はい。彼女は勉強には熱心にうちこんでおり、一年生の間は実家に一度も帰りませんでした。しかし、彼女が疎まれていた、とかなかったと思いますが」
「絵に描いたような優等生だった、と」
「そうですね」
「それはともかく、死因は何ですか」
「四階の自室から落ちたことによる転落死です。しかし、ここはプライベートスペース。我々も特権が無ければ入れません」

 つまり──裁判を開く必要がないということになる。加害者が学生に限定されるからだ。そう、干渉してはならないとされている青少年だ。
 この場にいた人々は大人が関与していないと分かると、早々と切り上げよう、と言い出した。
 それを制止したのはまさかのアキナ様だった。口調はあくまでも、プライベートだ。

「昨日、前学院長が自殺しましたわ」
「なっ……」
「アキナ様、それは──」
「彼の奥様は私に、夫が追放されたあの事について再調査をしてください、と手紙をくれましたの。ですから、これから何かと学院には迷惑をかけますわね」
「だが、彼は紛れもなく有罪だ! 多くの教師が、学生と二人きりで話をしているのを見ている! 内容も関われない事だった! 」
「そうですよ! 」

 一昨年は私は機関に入ったばかりの新人として働いていた。落ちこぼれということから妬まれもせず、また、親しくなろうとする者もいなかった。
 そんなときに起きたあの出来事。裁判でさっさと追放が決まった。誰もが彼こそ有罪だと明確に発言した。

「あなた方がどう思うと勝手ですので、私は調べさせていただきます」

 そう言い放ったアキナ様は連れの者を伴い、さっさと去ってしまわれた。

 皆が去った後、私だけが部屋に呼ばれた。胃が痛い。

「あの、アキナ様……」
「どうぞ」

 小柄な私よりも背の高いアキナ様。それだけでかなりの威圧感を放っていた。

「君は派遣だから何も分からないと思うわ。だからね、アドバイスよ」
「アドバイス? 」
「あの学院の人は信じてはだめよ。あの時だってそう。相談を受けたことは一部の教師と学院長の間の秘密だったらしいの」
「なのに、密告をした人が? 」
「ええ」
「……アキナ様はどのようにして調べるおつもりでしょうか」
「そうねえ……。とりあえず奥様とお話するわ。それから行動は考える」

 アキナ様は微笑んだ。──私はどうすれば良いのだろうか。